1ヶ月ほど前のことだった。花見川に自転車を置いて、ペットボトルのお茶を飲んでいたら、川辺の草むらから、手のひら大くらいの小さな猫がみゃーみゃーいいながら私の足元に擦り寄ってきた。真っ白い毛並みで、それはそれはかわいらしい。どう見ても数日の間に生まれたばかりだ。ひょっとすると、誕生して一日くらいしか経っていないのではないだろうか。
周囲を見渡すと、親猫の姿はどこにもない。親猫がこんなちっこい子猫ちゃんを放っといて遊び歩いているとは考えられないので、おそらく誰かがここに捨てていったのだと思われる。うーむ、弱った。少しずつその場を離れようとしたのだが、子猫は私が親だと思っているのか、一所懸命ついてくる。これって、刷り込みなのか。
そして私のほうは逆刷り込みとでもいうのか、なんとなくこの子猫の親になったような気分になっていた。いや、いかん、いかん。そういうことをしている場合ではない。
私は、誰か来ないかな、と思ってちょっと待った。自転車は疾走してくるものの、歩行者がそういうときに限って、なかなか来ない。すると、70歳前後くらいのおじさんがやってきた。しめた。そのおじさんならなんとかしてくれるかも。しかし、かと言ってこちらから、「すみません、子猫がいるんですけど・・・。」みたいには話しかけられない。
結局そのおじさんは私と子猫を怪訝そうに観ながら、やや遠巻きにして通りすぎた。その後に、女子中学生らしき3人組みも通った。「わぁー、ちいせえ。かわいい。でも、きたなくね?」と言いながら通りすぎた。やばい。どうしよう。確かにその子猫は可愛いのだけど、ちょっと薄汚れていた。
申し訳ないのだけど、私もここにずっといるわけにはゆかない。子猫はお腹がすいているらしく、みゃーみゃーと時々鳴く。「あのね。おじさんはね。チミのお父さんじゃにゃいのよん。ごめんね。そんでね、そろそろ行かないとまずいのです。わかる?わかんねえだろうな。どうしよう。そうだ、もういっかい草むらの中に入るのってどうよ。」と、独り言、いや確実に子猫ちゃんに語りかけつつ、腰を屈めて草むらに誘導した。
するとそのとき、いい感じの母子が走り寄ってきた。「うわー、まーくん、ほら、見てごらん、可愛いね。生まれたばっかりだ。ちいさいねぇ。」と若い母親が幼稚園の年少さんくらいの男の子の顔を見ながら、子猫をひょいっと抱きかかえた。ラッキー。私は、えへへへ、と笑いながら、後ずさりし、自転車に跨り、心の中で、そんじゃね、と言いつつその場を後にした。
その母子がその後その子猫をどうしたかは知らない。でも、いきなり来て、いきなり拾っていってくれるというように現実は甘くない。きっと私みたいに、後続の誰かに下駄を預けるのだろうか。それとも強引に草むらの中に置いてゆくのだろうか。ちょっと気になるところではある。捨て猫なんて見たのって数十年ぶりくらいかもしれない。かわいそうだけど、どうにも出来ないよね。飼い主の方、よろしくたのんますよ。
2010.11.20